用語と図式
この章で解く問題
知識体系で語の規律が崩れると次の症状が出る。
- 「ICP」が章によって「Ideal Customer Profile」と「Intercept Customer Persona」を指し、章間で議論が噛み合わない
- 「ファネル」「ジャーニー」「ライフサイクル」が同じ図を別の語で呼び、新規読者が「どれが違うのか」を理解できない
- 略語の初出が定義されず、業界経験者でないと読めない
- 訳語が場当たり的に作られ、「最終資源配分責任」「最終的なリソース配分の責任」が並走する
- 旧称(MVDF / CMOFlow / 5 段サイクル主表記)が章によって残り、リブランド前後の読者で語彙が一致しない
第 7 原則(語の規律)はこれらを防ぐためのものであり、本章はその運用ルール(記法 / 命名 / 略語 / 図式 / 翻訳 / 廃止語)を集約する。
本章は次の 4 つを提供する。
- 中核モデルの記法: マーケティングサイクル × 12 KA マトリクス、4 層モデル、ITTO 記法
- 命名規約: 章・節・ファイル・process・メトリクスの命名ルール
- 略語と翻訳: 業界略語の正式名称、英日対応の方針
- 廃止語と改名: 旧称の retire ルール
執筆者向けの追加規約(文体・分量・frontmatter スキーマ等)は ../_meta/authoring-conventions.md を参照。本章は読者・執筆者の双方が参照する notation reference として位置づける。
対象範囲
本章は CMO Marketing OS Playbook で使用する記法と規律を定義する。用語の一次定義は ../appendices/glossary.md に置き、本章は読者が知識体系を読み解くための notation reference を担う。
中核モデル
CMO Marketing OS Playbook は 3 つの中核モデルで構成される。すべての章はこれらと整合する。
マーケティングサイクル × 12 KA マトリクス
マーケティングサイクル(観測・データ収集 / 理解・分析する / 再構築 / 起動・実装する / 学ぶ)と 12 知識エリアの直交マトリクス。マーケティングサイクルの各段をプロセス群として扱い、各セルに process が定義される。
観測・データ収集 理解・分析する 再構築 起動・実装する 学ぶ
┌──┬───────┬────────┬────────┬─────────┬──────┐
05 │ │ │ │ │ │ │ 統合・戦略
06 │ │ │ │ │ │ │ Intelligence
07 │ │ │ │ │ │ │ ICP・ポジショニング
08 │ │ │ │ │ │ │ ブランド・ナラティブ
09 │ │ │ │ │ │ │ プロダクトマーケティング・JTBD
10 │ │ │ │ │ │ │ 価格・オファー設計
11 │ │ │ │ │ │ │ 需要・ライフサイクル
12 │ │ │ │ │ │ │ コンテンツ・チャネル
13 │ │ │ │ │ │ │ 計測・MarTech
14 │ │ │ │ │ │ │ 組織・能力
15 │ │ │ │ │ │ │ ステークホルダー連携
16 │ │ │ │ │ │ │ リスク・コンプライアンス
└──┴───────┴────────┴────────┴─────────┴──────┘
完成版は ../appendices/matrix.md。全 process の ITTO 詳細は ../appendices/itto.md。
4 層モデル(L1 / L2 / L3 / L4)
各章は最大 4 層で構成される:
| 層 | 役割 | 章内での位置 |
|---|---|---|
| L1 Strategy | 章の overview、戦略的意思決定軸 | Overview |
| L2 Process | マーケティングサイクル × ITTO | プロセス |
| L3 Tactical | 媒体・チャネル・手法別の運用詳細 | タクティカル・プレイブック |
| L4 Tools | 個社製品・SaaS 詳細 | 本体には書かず ../../tools/ へ |
層の表記は本書で常に「L1〜L4」を用いる。「戦略レイヤー」「最適化レイヤー」と書く場合は別概念(Principle 2、principles.md)であり、混同しない。
ITTO 記法
PMBOK 由来の記法を踏襲する。各 process は 3 要素で表現する:
- Inputs: その process が消費する成果物・情報・状態
- Tools & Techniques: 適用する手法・道具・アルゴリズム
- Outputs: 生成される成果物・情報・状態
記載形式:
### 観測・データ収集段のプロセス
- **Inputs**: 4 つの観測対象レポート、ICP 仮説、競合 SERP
- **Tools & Techniques**: JTBD インタビュー、競合スタック調査
- **Outputs**: 不一致リスト、Performance ベースライン
ITTO は process 単位で記述する。1 process につき I / T / O を各 1 ブロック書く。複数 process を 1 ブロックに混ぜない。
命名規約
章・節の命名
- 章: 日本語名または日本語名 + 英語名。例:
統合・戦略 - 節: 内容名のみで書く。例:
再構築 - 小節: 内容名のみで書く。例:
投入物・手法と道具・産出物(ITTO)
見出しには 1. / 1.1 のような章番号・節番号を付けない。順序変更時の保守コストを避けるため、順序は frontmatter とサイドバー定義で管理し、本文の見出し文字列には持たせない。
ファイル・ディレクトリの命名
- ファイル名:
<kebab-case>.md(例:integration-strategy.md) - ディレクトリ名:
<kebab-case>/(章が複数ファイルに分かれる場合) - 章ディレクトリの扉ファイルは
README.md - ファイル名・ディレクトリ名にも表示用の連番は入れない
process の命名
- 動詞句で命名する(例: "Customer Sync を取得する"、"ICP 仮説を更新する")
- 主語は省略可(マーケ組織が主語であることを暗黙の前提とする)
- 「〜する」形(動詞形)と「〜」形(名詞形)が混在しないよう、動詞形に統一
メトリクスの命名
- 業界標準が確立されているメトリクス(CPA / CVR / LTV / CAC / ROAS 等)は英略語のまま使う
- 独自メトリクスを導入する場合は日本語名 + 英語略称を併記し、
../appendices/glossary.mdに一次定義を残す - 「カスタマー獲得コスト」「顧客生涯価値」のような訳語と原語が混在しないよう、業界で広く使われている方を一つ選ぶ
略語
CMO Marketing OS Playbook 内で許容する略語の一覧:
| 略語 | 正式名称 | 説明 |
|---|---|---|
| マーケティングサイクル | マーケティングサイクル | 観測・データ収集 / 理解・分析する / 再構築 / 起動・実装する / 学ぶ からなる 5 段プロセス群 |
| KA | Knowledge Area | 知識エリア(12 領域) |
| L1〜L4 | Layer 1〜4 | 4 層モデル |
| ITTO | Inputs / Tools & Techniques / Outputs(投入物・手法と道具・産出物) | プロセス記述の 3 要素 |
| ICP | Ideal Customer Profile | 理想顧客像 |
| JTBD | Jobs To Be Done | 顧客が雇う仕事 |
| CMO | Chief Marketing Officer | CMO株式会社 の社名でもある |
| CPA | Cost Per Acquisition | 獲得単価 |
| CVR | Conversion Rate | 転換率 |
| CTR | Click Through Rate | クリック率 |
| CAC | Customer Acquisition Cost | 顧客獲得コスト |
| LTV | Lifetime Value | 顧客生涯価値 |
| ROAS | Return On Ad Spend | 広告費用対効果 |
| ROMI | Return On Marketing Investment | マーケ投資利益率 |
| MQL / SQL | Marketing / Sales Qualified Lead | 適格リードの分類 |
| MMM | Marketing Mix Modeling | マーケ予算配分分析 |
| SEO / AEO / GEO | Search / Answer / Generative Engine Optimization | 検索系最適化 |
| NPS | Net Promoter Score | 推奨意向スコア |
| VoC | Voice of Customer | 顧客の声 |
| RACI | Responsible / Accountable / Consulted / Informed | 責任分担表 |
| DRI | Directly Responsible Individual | 単独責任者 |
| E0〜E3 | Evidence Level | 知見の検証度(cycle.md の Evidence Level) |
| P0〜P3 | Priority Level | 経営整合性の優先度 |
| TAM / SAM / SOM | Total / Serviceable / Serviceable Obtainable Market | 市場規模区分 |
未定義略語の本文中での初出は 「正式名称(略語)」 形式で書く。例: 「Voice of Customer(VoC)」。以降は略語のみで可。
図式表現
マトリクス図
- 行 = 知識エリア、列 = プロセス群を原則とする
- セルは process 名または process ID を入れる
- 空セルは「process なし」を意味する。"-" や "N/A" は使わない
フロー図
- マーケティングサイクルは横方向(左 → 右)に書く
- 段の間は
─→で接続 - 巡回(学ぶ → 観測・データ収集)は二段折り返しで表現:
観測・データ収集 ─→ 理解・分析する ─→ 再構築 ─→ 起動・実装する ─→ 学ぶ ─┐
↑ │
└────────────────────────────────────────────────────┘
RACI 図
ステークホルダー関連の章で使用。記法は標準 RACI に従う:
- R(Responsible): 実行責任
- A(Accountable): 最終責任(必ず 1 人)
- C(Consulted): 事前相談
- I(Informed): 事後通知
詳細は ../knowledge-areas/stakeholder/ と ../cross-cutting/playbooks/ を参照。
翻訳ガイド(英日対応)
英語原語と日本語訳の併記方針:
- 章タイトル: 日本語名を原則とし、固有名詞・公式名称・業界標準語として英語名が流通している場合のみ併記する
- 本文での初出: 日本語訳語が業界で確立しているなら日本語のみ。確立していない / 略語が広く使われているなら英語原語のみ。両方が必要な場合のみ併記
- 本文中の英語補足: 固有名詞・公式名称・業界標準略語・検索語として必要な場合に限る。説明語の権威付けとして英語を括弧補足しない
- glossary 内: 固有名詞・公式名称・業界標準語・略語は正式名称を記載する。説明語は日本語定義を優先する
確立した訳語の例:
| 英語 | 日本語 |
|---|---|
| Knowledge Area | 知識エリア |
| Stakeholder | ステークホルダー |
| Tailoring | テーラリング |
| 再構築 | 再構築 |
| Customer Sync | 顧客同期(Customer Sync を主表記) |
| Customer Journey | カスタマージャーニー |
| Positioning | ポジショニング |
| Funnel | ファネル |
訳語が定まっていない概念は英語のまま使い、glossary に「日本語訳は未定」と記す。場当たり的に訳語を作って二重定義を起こすのを避ける。
廃止語・改名語との関係
CMO Marketing OS Playbook では一部の旧称を使用しない。詳細は ../_meta/authoring-conventions.md「リネーム / 廃止語」セクション。
主な改廃:
| 旧称 | 扱い |
|---|---|
| MVDF / Marketing Value Delivery Framework | 廃止(12 KA に吸収) |
| CMOFlow | Marketing OS に統一 |
| 5 段サイクル | マーケティングサイクルに統一。説明語として必要な場合のみ「マーケティングサイクル(5 段プロセス群)」のように併記 |
旧称を含む既存ドキュメント(../../base/ 配下)を参照する際も、本文中では新称に置き換える。
既存の標準ドキュメントとの位置取り
| 標準 | 出典 | CMO Marketing OS Playbook との関係 |
|---|---|---|
| PMBOK Guide | PMI | プロセス群 × 知識エリアの直交マトリクス、ITTO 記法、Performance Domains 概念を踏襲 |
| PMBOK 7 Principles + Performance Domains | PMI 2021 | 「原則 + ドメイン」の二層構造を Principles + Performance Domains にマッピング |
| BABOK Guide | IIBA | ビジネス分析の知識エリア構成。12 KA 分割の参考 |
| ITIL 4 / Service Value System | AXELOS | サービス価値の継続更新概念。Marketing OS の マーケティングサイクル(再構築段)の参考 |
| ISO/IEC/IEEE 12207, 15288 | ISO | システム / ソフトウェアライフサイクル。プロセス記述形式の参考 |
| Diátaxis Documentation Framework | Daniele Procida | チュートリアル / ハウツー / リファレンス / 説明の 4 区分。L1〜L4 で類似の階層を採用 |
| PRINCE2 | UK Cabinet Office | プロジェクト管理標準。本章では参照しないが、Tailoring の概念は PRINCE2 系譜 |
| SAFe / Scrum Guide | Scaled Agile / Schwaber & Sutherland | アジャイル系の用語規律。起動・実装する段の運用語彙に影響 |
| API 仕様標準(OpenAPI / JSON Schema) | OpenAPI Initiative 等 | 構造化記述の参考。frontmatter スキーマで類似の規律を採用 |
| Google Developer Documentation Style Guide | 英文ドキュメントの記法。日本語では参考程度 |
CMO Marketing OS Playbook が PMBOK と異なる選択を取っている主な点:
- マーケティングサイクルの 5 つのプロセス群 を Initiating / Planning / Executing / Monitoring & Controlling / Closing ではなく 観測・データ収集 / 理解・分析する / 再構築 / 起動・実装する / 学ぶ に置き換えた。マーケが「実行管理」よりも「学習継続」を中心に動くため
- Knowledge Areas を 10 ではなく 11 個にした。マーケに特化した分割(ICP / ポジショニング、コンテンツ / チャネル等)を採用
- 「Performance Domains」を 8 ではなく 6 個にした。マーケ固有のドメイン(Brand Equity / Learning Velocity)を昇格させ、プロジェクト固有のドメイン(Uncertainty 等)を統合
- 「Project」概念を持たない。マーケは continuous であり、開始 / 終了が前提となる PMBOK の枠組みは本質的に合わない。代わりに「サイクル」を運用単位とする
これらの差分は introduction.md で詳述する。
運用補題
補題 4-A: 新しい語の導入と glossary 更新は同一コミットで行う
新しい用語を本文に書いた瞬間に ../appendices/glossary.md を更新しないと、二重定義や別文献での競合が発生する。
- 違反時の失敗: 章 A で導入された語が章 B で別の意味で使われる
- 検出指標: glossary に存在しない太字用語が本文中に出現していないか
第 7 原則の運用補題。
補題 4-B: 略語の初出は「正式名称(略語)」形式で書く
業界経験者には自明でも、新規読者は略語の意味を辞書で引けない。
- 違反時の失敗: 読者の理解が章を追うごとに分岐する
- 検出指標: 初出での「Voice of Customer(VoC)」形式の充足率
補題 4-C: 訳語の場当たり的作成を禁止し、未確立の語は原語のまま使う
確立していない訳語を執筆者が自作すると、各章で別の訳語が並走する。
- 違反時の失敗: 「最終資源配分責任」「最終的なリソース配分の責任」が同じ概念を指して並走する
- 検出指標: glossary に「日本語訳は未定」と記された語の本文中での原語率
補題 4-D: 旧称が出てきたら本文で新称に置換し、廃止語表に記載する
../../base/ 既存ドキュメントには旧称(MVDF / CMOFlow / 5 段サイクル主表記 等)が残る。CMO Marketing OS Playbook 側で参照する際は本文中で新称に置換する。
- 違反時の失敗: リブランド前の読者と後の読者で語彙が一致しない
- 検出指標: 廃止語表に該当する語の本文中での新称率
補題 4-E: 同じ概念に複数の表記が必要なら、主表記と併記表記を明示する
「マーケティングサイクル」と「5 段プロセス群」のように、固有名と説明語の両方を使う必要がある場合に限り、主表記を決めて「主表記(説明語)」の形で書く。
- 違反時の失敗: どちらが正式名称か読者が判定できない
- 検出指標: 併記表記を使っている語が主表記とセットで初出しているか
補題 4-F: 専門用語(ICP / JTBD 等)は許容、難解語は不許容
専門用語と難解語は別物である。専門用語は glossary 一次定義で許容、難解語(残渣・営為・退避する等)は推奨置換に従う(../_meta/authoring-conventions.md「避けるべき語」)。
- 違反時の失敗: 平易さの規律が崩れ、新規読者が辞書を引かないと読めない
- 検出指標: 避けるべき語リストとの照合スコア
関連 skill / agent
本章は Marketing OS の skill には直接対応しない(記法定義のため)。命名規約や略語の運用は CMO Marketing OS Playbook 全章で参照される。
今後の拡張論点
- 章扉ファイル名 — 章がディレクトリの場合、扉を
README.mdかindex.mdか00-overview.mdのどれにするか。現在はREADME.mdを採用しているが、GitHub レンダリングを優先するならREADME.mdで、Next.js ルーティングを優先するならindex.mdでも可 - 業界略語の網羅範囲 — 本章に列挙する略語は CMO Marketing OS Playbook 内で実際に出現するものに限るか、マーケ業界で広く使われるものを網羅するか
- 訳語の併記スタイル — 「日本語名(英語名)」と「英語名(日本語名)」の併記順を CMO Marketing OS Playbook 内で統一する判断(現状は日本語先)
- Customer Sync の訳語 — 「顧客同期」と書く際の感触が硬い。「Customer Sync」原語のまま使う方針を継続するか
- 既存標準ドキュメント の比較対象範囲: PMBOK / BABOK / ITIL / Diátaxis / PRINCE2 / SAFe を入れたが、マーケ寄りの標準(Marketing Accountability Standards Board / MASB Common Language Marketing Dictionary 等)も追加すべきか
- 運用補題 の所在: 補題 4-A〜4-F は本章に置いたが、第 7 原則(語の規律)の運用補題として Principles に統合する案もある
- 理論的背景 / 事例 セクション の欠落: 本章は notation 章のため省略したが、用語規律の失敗事例(PMI の "scope creep" 定義変遷など)を事例として薄く入れるか