第 3 章 — アカウント構造と運用思想
アカウント構造は、 広告運用の骨格 です。構造が乱れると、自動化が進んだ媒体でも学習データが分散し、改善判断が遅くなります。本章では、アカウント階層、設計思想、命名規則、運用上の注意点を整理します。
アカウントの階層
ほとんどの主要媒体は、次のような階層で広告を管理します。
アカウント
└ キャンペーン: 予算、地域、デバイス、配信目的
└ 広告グループ: 同じ検索意図・テーマを持つ広告と KW
├ 広告: 見出し、説明文、リンク先
└ KW(検索広告) / オーディエンス(SNS 広告)
キャンペーン
キャンペーンレベルでは、 予算と配信目的 を決めます。
| 設定項目 | 内容 |
|---|---|
| 予算 | 日予算、月予算 |
| 配信目的 | 認知、トラフィック、CV など |
| 地域 | 配信地域 |
| デバイス | PC、モバイル、タブレット |
| 配信スケジュール | 曜日、時間帯 |
| 入札戦略 | CPA、ROAS、クリック最大化など |
キャンペーンを分けるのは、 「異なる目的・予算配分・地域・デバイス」で運用したいとき です。
広告グループ
広告グループは、 同じ検索意図・テーマを持つ広告と KW(またはオーディエンス)の集合 です。
[例] 経費精算 SaaS の検索広告
キャンペーン: 検索広告_顕在獲得
├ 広告グループ: 経費精算_比較系
│ ├ KW: 経費精算 比較、経費精算 おすすめ
│ └ 広告: 「○○ vs 他社、経費精算で選ばれる理由」
├ 広告グループ: 経費精算_料金系
│ ├ KW: 経費精算 料金、経費精算 価格
│ └ 広告: 「経費精算、初月無料・契約不要」
└ 広告グループ: 経費精算_緊急系
├ KW: 経費精算 大変、経費精算 自動化
└ 広告: 「月末月初の処理時間を削減」
広告グループは 「広告文と KW が 1 対 1 対応できる単位」 で分けます。これにより、検索クエリ → 広告文 → LP の一貫性が保たれます。
広告
広告レベルでは、 見出し、説明文、リンク先、表示オプション を設定します。
| 検索広告 | SNS / ディスプレイ広告 |
|---|---|
| 見出し(複数) | 画像 / 動画 |
| 説明文 | 本文テキスト |
| 表示 URL | リンク URL |
| 最終 URL | CTA ボタンテキスト |
| 表示オプション(サイトリンク、コールアウト) | ピクセル設定 |
アカウント設計の 3 思想
検索広告の設計思想は、時代によって変わってきました。現在は データを集約する方向 が主流です。
| 思想 | 提唱 | 要点 |
|---|---|---|
| HAGAKURE | Yahoo!(2014 年〜) | アカウント構造を簡素化し、検索意図と LP に沿ってデータを集約 |
| GORIN | Yahoo!(2017 年〜) | リーチ、ターゲティング、フォーマット、計測を整え機会損失を減らす |
| MUGEN | Yahoo!(2020 年〜) | 自動入札、DSA、RSA を活用し、手作業では拾えない需要へ広げる |
これらは Yahoo! 広告から出てきた概念ですが、 Google 広告にも同じ思想が当てはまります 。
自動化以前と以後
| 自動化以前(〜 2015 年) | 自動化以後(2018 年〜) |
|---|---|
| 1 広告グループ = 1 KW で細分化 | 検索意図単位で広告グループ化 |
| マッチタイプを完全一致中心 | 部分一致 + 自動入札で拡張 |
| 手動入札で細かく調整 | 目標 CPA / ROAS で自動調整 |
| キーワード追加・除外を手作業 | DSA、RSA で自動拡張 |
細かく分けすぎると データが分散し、機械学習も改善判断も遅くなります 。現在は、検索意図と LP を対応させ、データが分散しすぎない構造が基本です。
検索広告のアカウント設計
検索意図単位で広告グループを分ける
KW のテーマや検索意図でグループ化します。
[弱い設計]
広告グループ 1: 経費精算 比較
広告グループ 2: 経費精算 価格
広告グループ 3: 経費精算 おすすめ
広告グループ 4: 経費精算 ランキング
...(細かく分けすぎ)
[強い設計]
広告グループ 1: 経費精算_比較検討系(比較、価格、おすすめ、ランキングを統合)
広告グループ 2: 経費精算_緊急課題系(大変、面倒、自動化)
広告グループ 3: 経費精算_業種別(建設業、製造業)
広告とランディングページを揃える
各広告グループの広告文 → ランディングページの遷移先を、 検索意図に対して一貫させます 。
| 広告グループ | 広告文 | LP |
|---|---|---|
| 比較検討系 | 「経費精算 SaaS の比較で選ばれる理由」 | 比較記事ページ |
| 緊急課題系 | 「月末月初の処理時間を削減」 | 課題解決訴求 LP |
| 業種別 | 「建設業向け経費精算 SaaS」 | 業種別 LP |
LP がない場合は、 広告グループに対応する LP を作る ところから始めます。広告文と LP の約束がズレると、CTR は取れても CVR が落ちます。
SNS / ディスプレイ広告のアカウント設計
SNS 広告ではキャンペーンの分け方が検索広告と異なります。
| 分け方 | 理由 |
|---|---|
| 顧客状態(潜在 / 準顕在 / 顕在 / 既存)で分ける | 訴求と LP が大きく異なる |
| クリエイティブ素材タイプで分ける | UGC、商品紹介、ブランド動画など |
| ターゲティング軸で分ける | 興味関心、類似オーディエンス、リターゲ |
| キャンペーン目的で分ける | 認知、CV、エンゲージメント |
リマーケティング(リターゲ)は、 別キャンペーン にすることが推奨されます。新規ユーザーと既訪問ユーザーでは入札戦略・クリエイティブ・予算配分が異なるためです。
命名規則の整備
複数キャンペーンを運用すると、命名規則がないと どれが何のためのキャンペーンか分からなく なります。
命名規則の例
[媒体]_[配信目的]_[ターゲット]_[期間]_[備考]
例: GoogleSearch_CV_経費精算顕在_2026Q2_新LP
[媒体] : GoogleSearch, GoogleDisplay, Meta, LINE, X, TikTok
[配信目的] : CV, Awareness, Retargeting, BrandSearch
[ターゲット] : 経費精算顕在, 経費精算潜在, 既存顧客LAL
[期間] : 2026Q2, 2026M05
[備考] : 新LP, 動画クリエイティブ, 年末キャンペーン
命名規則は チームで合意して、変更しない ことが重要です。途中で変えると過去データとの突合が困難になります。
共通の運用上の注意
1 つの変更を分離する
複数の変更を同時に行うと、 何が効果に効いたか分からなくなります 。
[弱い]
広告文を変更 + 入札戦略を変更 + LP を変更 → 結果が良くなった
[強い]
広告文を変更 → 1 週間観察
入札戦略を変更 → 1 週間観察
LP を変更 → 1 週間観察
キャンペーン階層では予算を意識的に分ける
合算予算で全キャンペーンを管理すると、 成果の出ているキャンペーンに予算が偏り、新規仮説が試せなくなります 。
| 予算配分の目安 |
|---|
| 70% を稼ぎ頭のキャンペーン |
| 20% を成果が出始めたキャンペーンの拡大 |
| 10% を新規仮説の検証 |
新規仮説に予算が回らない設計は、 長期的な成長を止めます 。
CV 設定を統一する
複数キャンペーンで「CV」の定義が違うと、 媒体の自動入札が混乱 します。資料 DL を CV にしているキャンペーンと、申込完了を CV にしているキャンペーンが混在すると、最適化が機能しません。
アカウントの権限管理
| 権限レベル | 推奨される対象 |
|---|---|
| 管理者 | 社内のマーケ責任者、内製運用担当者 |
| 編集者 | 代理店、社内オペレーター |
| 閲覧者 | 経営層、関係部署 |
代理店に管理者権限を渡しっぱなしにすると、 解約時にデータごと失う リスクがあります。アカウントの帰属は社内に置きます。
アカウント構造のチェックリスト
定期的に(四半期ごとが目安)次をチェックします。
- 命名規則が一貫しているか
- 無効化されている古いキャンペーンが残っていないか
- 1 広告グループ内に矛盾する KW が混ざっていないか
- 広告文と LP の整合性が取れているか
- 除外 KW が更新されているか
- CV 計測タグが正常に発火しているか
- 予算配分が成果と整合しているか
- アカウント権限が現在の体制と一致しているか
アカウント構造の落とし穴
| 落とし穴 | 起きやすい状況 |
|---|---|
| キャンペーン乱立 | 担当者交代の繰り返し、整理されないまま蓄積 |
| 1 KW 1 広告グループ | 古い設計思想の流用 |
| 命名規則なし | 1 人運用時に決めないまま組織化 |
| 代理店ブラックボックス | アカウント構造を見せてもらえない |
| 予算が稼ぎ頭に集中 | 新規仮説が試されない |
まとめ
第 3 章では、アカウント構造と運用思想を扱いました。次章では、 入札戦略と予算配分 に進みます。